【11】「歩数の一行日記」があなたを救います、身体機能の貯蓄(貯身)をしましょう。

はじめに

90歳、100歳でも自分の足で歩くためには、その30年前の60歳や70歳のときにどのぐらいの身体機能を保持していればよいと思いますか。
例えば、70歳のときに100万円持っていれば今日明日に困ることはありませんが、100歳まで生きてゆくには心配な額です。身体機能も経済的な貯蓄と同じで、将来のために蓄えておくことが必要です。70歳の今、1日に500歩しか歩いていない人が100歳になったときに自分の足でどのぐらい歩けるでしょうか。私は「身体的な貯蓄」を「貯身(ちょしん)」と勝手に名付けました。ご自身の「貯身」状態をみる方法として、1日の歩数はとても役立ちます。使用するのは簡単な万歩計でもスマホの歩数記録機能でも構いません。1日の合計歩数をノートなどに「〇月〇日 XXXX歩」という感じで書き出してください。私はこれを「歩数の一行日記」と呼んでいます。足や腰の痛みが強くなった日は、そのことも一言書いておくと後で見返した時に便利です。
ノートはずっと保存しておき、半年後、1年後、10年後に過去を振り返って日々どれくらい歩いていたかを確認できるようにしておきます。今、62歳の私もしています。

歩数を記録して得すること

一言で言いますと、歩けなくなるのを防ぐ、つまり寝たきりになることを防ぐことに繋がります。セルフケア(ご自身でするケアや対応のこと)の一つで、病気になってから病院を受診して病気を治すという考え方ではなく、病気が悪くなる前、あるいは病気になる前に対応するというこれからの医療の考え方です。
「歩数の一行日記」は、今以上に歩く能力が落ちないようにするためのセルフケアとしてとらえてください。

「歩数の一行日記」には少なくとも3つの利益があります。
① 今の身体活動量、身体機能がわかる
② ノートを見返すことで歩数減少に気づく
③ あなたにとっての歩きすぎがわかる

①今の身体活動量、身体機能がわかる

家の中も外も含めた1日の歩数で、あなたの身体活動量をおよそ知ることができます。これは人と比べるためではありません。3か月前の自分、1年前の自分と比べるのに使います。あくまでもご自身の経過を知ることが目的です。正確に何歩歩いたかは重要ではなく、大切なのは増えているのか、維持できているか、減っているのかの変化を見ることです。歩数が多くなったということは、生活の中で身体活動量が増えたということと、多く歩けるだけの身体能力があがったあるいはこれから増えていく可能性を意味しています。歩数が少なくなったということは、身体活動量が少なくなったということと、身体能力が落ちたあるいはこれから落ちてゆくという可能性を意味しています。繰り返しになりますが他の人と比べるためではありません、ご自身の変化をみることに注目してください。

②ノートを見返すことで歩数減少に気づく

年齢とともに日常の生活動作の中でとくにきっかけもなく背中の骨がつぶれることがあります。半分弱のかたは急に痛みが出ます。このように急に痛みが生じて歩きにくくなった時は、だれでも歩きにくくなったとわかります。一方、痛みの症状もなく3か月あるいは半年の経過で次第に歩く量が減ってきた場合は、私たちはその変化に気づきにくいものです。そのため、知らないうちに高齢の方が徐々に寝たきりになることがあるのです。

そこで、寝たきりにならないように「歩数の一行日記」をつけておきます。日記を見返せば、ゆっくりとした歩数減少でも簡単に知ることができるからです。また数値で表されると、血圧や血糖、コレステロール値のように何とかしようという気持ちに繋がります。

ここで私の患者さんのお話を一つ紹介します。その方の「歩数の一行日記」を確認させて頂くと、1年間でゆっくりと歩数が半減していました。しかし、どこかが痛くなったとか、歩きづらくなったとかのエピソードはありません。一緒に原因を探してゆくと、足に「たこ」ができていることがわかりました。おそらく痛みが全くなかったわけではなく、無意識に足の「たこ」が痛くならない程度の歩数まで減らしていたため、痛みが記憶に残っていなかったのだと思います。「歩数の一行日記」のおかげでゆっくりとした歩数減少に気づけ、その原因も突き止めることができました。

③あなたにとっての歩きすぎがわかる

多くの患者さんの「歩数の一行日記」を見ていると、一か月の最高歩数だった翌日や数日後に歩数が非常に減っていることがよくあります。時には数日間も歩数が減っています。
他にも、外来時に「足に痛みが出てきました」との訴えがあり、「歩数の一行日記」を確認すると、その前日や数日前にその月の最高歩数を記録していたということがあります。
いずれの場合も、その歩数はその方にとって歩きすぎということです。
この場合、「あなたにとってこれは歩きすぎですよ、〇〇歩くらいに上限設定しましょうね。」と指導しています。
「歩数の一行日記」を見返して、その月の最高歩数や特別に歩数が多かった翌日の歩数が減っている場合は、痛みがあったのか、しんどかったのかを思い起こしてご自身の健康的な上限歩数を設定してみましょう。

まとめ

今、あなたは90歳、100歳になっても歩けていると思えるだけの量を1日に歩いていますか?
身体的な貯蓄は1日の歩数で数字にするとわかりやすく”見える化”できます。「〇月〇日 XXXX歩」という感じで「歩数の一行日記」をぜひ習慣づけてみてください。今の身体活動量、身体機能がわかるだけでなく、将来あなたの役に立ちます。

次回は、「歩数の一行日記のおまけの利益」のお話です。