【15】「痛みを和らげる際に知っておいて得する3つのこと」

はじめに

お医者さんによる診断の結果、こわい病気、特殊な病気がないですよと分かったあとに「痛み」が続いている場合のお話として読んでください。
身体活動量・歩行量が減る痛みは、歩数が少し増える方向になるところまで、あるいは生活活動量が少し増える方向になるところまで、痛みを和らげるとよいというお話を前回しました。
今回はその際に、知っておいて得する3つのことを説明いたします。1つ目は考え方、2つ目はルール、3つ目は見えない落とし穴です。

① 人生のハンドルを奪われないこと
② やりすぎず、さぼらず、ちょっとずつ
③ 見えない落とし穴は腎臓の機能低下です。腎臓も100年もつように大切に。

①人生の運転席を痛みに奪われないこと、人生のハンドルはあなたが握って下さい

これは認知行動療法(長く続く痛みの分野でも注目されているこころの治療法の一つ)の第一人者の大野裕先生より教わりました。私の診療の場面でも使わせていただいています。
痛みのことで、ご自身の考えることや行動が支配されてしまっていませんか?
買い物に行くと痛くなったので控えるようにしている、最近は週一回しか外出しなくなっている、だんだん歩くのがしんどくなってきた、これは痛みにハンドルを奪われつつあります。

以前のように買い物に行きたいな、痛みを和らげるようにいろいろと工夫をしている、これは人生のハンドルをあなたが握っています。

1回しかない人生、何をしたいのか、何ができるようになりたいのか、それが今わからなくてもまずはハンドルを奪い返して自分で握ってみてください。そうしたらハンドルを握ってよそ見せずに前をみるようになり行きたい方向が見えてきます。
近所を散歩して季節の変化を楽しみたい、自分の足で買い物を楽しみたい、お料理を楽しみたい、神社やお寺を巡りたい、など何かに向かって、ゆっくり安全運転で、ハンドルを握って人生の運転している自分をイメージしてください。

②やりすぎず、さぼらず、ちょっとずつ

1日の生活活動量を歩数で数字にしてゆくことはこれまでに紹介いたしました。今回は、今日は体調もいいし気分もすぐれるのでいつも以上にたくさん散歩しました、すると翌朝足腰が痛くなり数日間は家の中でじっとしていました、ということにならないようにするためのルールを紹介いたします。
歩数でみる身体活動量の上限を設定しておきます。過去を振り返ってみて、どこも痛くなることのなかった最大の歩数ぐらいを上限にしてみるのがまずはいいと思います。やりすぎないためのルールです。
さぼらないためのルールは簡単です。身体活動量(歩数)の少ない日に注目するのです。そこにちょっとだけ家の中での歩行や近所の散歩など何かやりやすい活動、楽しめる活動をします。

高齢になれば、このような健康的な生活のルールがとても大切です。無理ができた若い時のやり方を卒業して、人生100年時代に適したライフスタイルを自分で管理するセルフケアが令和的なやり方です。

③見えない落とし穴は腎臓の機能低下です、腎臓も100年もつように大切

人生100年になり、100歳まで持たないで困るのはお膝や腰だけではありません。実は痛くもかゆくもありませんが、腎臓も100歳まで持たないのです。年齢とともに腎臓の機能は落ちてゆき、80歳を超えますと半分近くの方が腎機能の悪い状況です。弱った腎臓を元気にさせるお薬はまだありません。100歳まで腎臓が元気でいてくれるように大切に守ることが大切です。
痛みを抑えるお薬は腎臓を悪くするものも広く使われています。高齢になれば腎臓を悪くしやすいお薬をつかわないということが大切です。非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)と呼ばれる痛み止めは腎臓への血の巡りを悪くする影響があるので避けます。
腎臓が弱ると、心臓や血管系の病気が悪くなり死亡率も増えます。さらに困ったことに足の付け根の骨も折れやすくなることがわかっています。腎臓が100歳まで元気でいるように大切にしてください。

では、痛みを和らげるにはどうするの?ご安心ください。腎臓に負担のない痛みを和らげるお薬はこの15年でたくさん開発され保険診療でたくさん使われています。腎臓に負担をかけずにお薬で痛みを和らげることがとてもやりやすい時代になっています。

「減塩」も腎臓を守る基本ですので、これも忘れないようにしてください。

まとめ

年齢とともに身体活動量、歩数が減る、大きな要因が「痛み」です。痛みを少し和らげることで歩数や身体活動がすこし増えるようになると、生活の質も上がります。その際に、大切な3つのことは、「人生のハンドルを奪われない」という考え方、「やりすぎず、さぼらず、ちょっとずつ」というルール、「症状もなく悪くなる腎臓」という見えない落とし穴にはまらないように使うお薬に注意することです。

次回、「歩行量が減る意外な原因」を説明します。