はじめに
60歳を超えた患者さんで私の外来に初めて来られた方には、いつも朝食は何を食べているの?昼は?夕は?と食事内容を尋ねます。次に1日に何歩くらい歩いているの?と尋ねます。これで、20年30年後のその方の姿を私は予想できます。その結果が歩けないと予想した場合は、私が必要な情報をお伝えしたり、お薬を使って、そうならないようにサポートしますので外来に来られた方はご安心ください。外来に来れない方はこれを読んでみてください。お薬を届けることはできませんがちょっと役立ちます。
ヒトの体は何でできているかご存じですか?
すべてたんぱく質でできています。たんぱく質?へっ?なになに?という方もおられるかもしれませんので、少しだけ説明しますと、たんぱく質はアミノ酸からなる生物にとって重要な成分です。ばい菌ちゃん、ミミズ、おけら、あめんぼだって、魚も、鶏も、豚も、牛もみんなたんぱく質でできています。もちろんヒトもたんぱく質でできています。髪の毛も、皮膚も、血管も、心臓も、脳も、筋肉も、骨も、胃も、腸も同じです。たんぱく質がないと体は作られないということです。これは覚えておいてくださいね。
日々の新陳代謝でいつもからだは新品に
あなたの顔は3年前と見た目があまり変わっていないので、3年前のたんぱく質がずっとあるのでしょうか?実は3年前のたんぱく質はほとんど残っていません。なぜなら忙しくいつも作り変えられているのです。顔の見た目は3年前と変わっていなくても、眉毛は生え変わっていますよね、皮膚も新しい皮膚にかわって、古い皮膚は垢(あか)となって日々落ちてほこりやゴミになっていきます。表面だけでなく、体の中の血管も、筋肉も、骨もいつも作り変えられています。道路工事が年中行われているようなもので、道路もへこんだり穴が開いたり傷んできてだんだん車が安全に通れなくなりますので、よく作り変えていますよね。血管も骨も皮膚もすべて古いままだと素材が弱くなって割けたり折れたりしやすくなりますので、いつも新品に作り変えることを日々行っているのです。これが新陳代謝(しんちんたいしゃ)です。
からだの材料のたんぱく質が足らないとどうなるの?
では、体をつくる材料のたんぱく質が足らないとどうなるでしょうか?建物の工事であれば、20mの鉄柱が20本必要なところを、材料仕入れ係がさぼっていて、15本しか仕入れていなかったり、12mの短い支柱しか届いていなかったらどうなるでしょうか?建物は丈夫に作れませんから傾いたりしますよね。そのようなときは、通常材料が届くまで工事を中断して待てばいいだけなので、解決は簡単です。ヒトも材料仕入れ係の口がたんぱく質をしっかりとってくれないときは、新陳代謝を一時中断したらいいのに、と思いませんか?私はいつもそう思っています。
でも、これは非常に残念なことなのですがヒトは新陳代謝を一時中断したりできないのです。なぜならヒトは、一定の体温でいつも新陳代謝をしている生き物ですから。材料仕入れ係がたんぱく質をたくさん仕入れていないときでも材料が足らないまま作り変えることになるので、建物の支柱が本数不足だったということが血管や皮膚や骨で起こります。材料が足らないまま新陳代謝をするので体のいたるところが粗悪品に作り変えられるということです。骨が折れやすくなったり血管や皮膚が弱くなったりなるわけです。
縁の下の力持ち、筋肉さん!
どうもたんぱく質の使用には優先順位があるようです。心臓や血管や腸などが優先順位が高く、たんぱく質が足りなくても優先的に送られるので、すぐに大変なことにはなりません。
その裏で活躍しているのが、筋肉です。筋肉の新陳代謝はとても活発で、またヒトの体の中でしめる割合がとても多い組織です。たんぱく質が足りない状態が続くと、筋肉を壊して生み出したたんぱく質を、優先順位の高い組織へ送ります。
このように日々すごい勢いで自分の細胞を壊してはたんぱく質を必要な所へ送っている筋肉さんにたんぱく質を届けられないと、筋肉さんは疲弊していきます。
筋肉がへると、歩きにくくなります
筋肉が減るとどうなるでしょうか?皆さんこれまでに何かの病気であまり食べられなくなって数日間寝込んだ後に、立ち上がろうとして体が重かったという経験がありますよね。そう、筋肉が減る生活を続けていると、体が重くて支えにくくなる、つまり立ち上がるのがしんどくなったり歩く速度がおそくなったり、その先は歩けなくなる運命が待ち受けています。つまり車いすや寝たきり生活です。その前に転倒して骨折というコースもあります。
材料仕入れ係さん、がんばって
というわけで、材料仕入れ係がしっかりとたんぱく質を仕入れていない場合には、筋肉が急速に減る運命にあるのがヒトのからだです。たんぱく質は魚や豚や鶏や牛を食べると仕入れることができますが、それらをたくさん食べていない方はご自身の筋肉をパクパクと食べているのと同じことが起こるわけです。
そう考えると、材料仕入れ係がたんぱく質の入っていないパンやフルーツばかりを仕入れて、たんぱく質はご自身の筋肉を食べて調達して寝たきりに近づいてゆくよりは、食事からたんぱく質を摂って、ご自身の筋肉を減らさないほうがいいですよね。
結論は
たんぱく質が1日にどれくらい摂れているかを食事内容を尋ねて計算することで、20-30年後にあなたが80代になっても90代になっても自分の足で歩けるかどうかを簡単に予想できます。
たんぱく質の計算の仕方について次回お話します。