【2】「80代90代になっても自分の足で歩くために」たんぱく質をとる大作戦です

はじめに

高齢になると若いころよりも食べる量が減ってくることが普通です。食べる量が減ってきたときに若いころと同じような食べ方では、口に入れるたんぱく質の量も減ります。たんぱく質の摂取量が減ると筋肉が減ってゆくことは「80代90代になっても自分の足で歩くために」でお話いたしました。食べる量が減っても、たんぱく質を十分取り入れて、それが吸収・利用される食べ方に変えてゆくことが元気に歩き続けるための大作戦です。

大作戦には3つのポイントがあります。①食べるたんぱく質の量、②食べる回数と順序、③食材選びです。順番に説明します。

ポイント① 食べるたんぱく質の量

たんぱく質の量を正確に計測するのは大変です。日常生活ではなかなかできません。日々暮らしている中でできる方法として、数字を2つだけ覚えて、あとは簡単なわり算やたし算をします。

わり算は、魚、鶏、豚、牛、エビ、貝などの動物性たんぱく質の計算に使います。その重さの「5分の1」がたんぱく質の重さです。75gの少し大きめの鮭の切り身を食べれば、5で割った15gのたんぱく質を摂取したことになります。霜降りの牛肉やジューシーな豚肉のように油成分が多くなれば逆にたんぱく質の量は減ります。
たし算は、にわとりの卵の計算に使います。卵一つでたんぱく質は6gです。卵の大きさにより上下しますのでおよその値ですが覚えてくださいね。たんぱく質は白身の部分に存在し、コレステロールは黄身の部分に存在します。

●肉類の重さ(g)の5で割った値がたんぱく質の重さ(g)
●卵ひとつで、たんぱく質6g
この二つを覚えておくだけです。あとはご自身が食べた量をみながら、計算してくださいね。

ポイント② 食べる回数と順序

高齢になって食が細くなるのは、一食でたくさん食べられないということです。背中が丸くなった姿勢でたくさん胃に入りにくいという問題も高齢者にはよくあります。このような場合には、3食必ず食べるということと、少ない食事量でも効率よく吸収されるたんぱく質が多い食材を選ぶという作戦をとります。

まずは、3回の食事をとることの大切さを覚えましょう。3食といっても朝は少しだけで夕食にたくさんというばらつきのある食べ方はよい作戦ではありません。朝・昼・夕の3回とも同じくらいのたんぱく質をとるのが理想です。例えば赤ちゃんはお母さんのお乳を日に10回くらい飲んで栄養をとります。朝は抜いて夕方たくさんお乳を飲むなんてことはしないですよね。一度にたくさん授乳すると吐いてしまいます。少しの量を頻回にとっている乳児と同じように、食が細くなった高齢者はこまめに栄養をとる必要があります。夕食だけたくさん食べても良いわけではないのです。だから3食同じくらいの量をとってくださいね。状況によっては1日5食にしてもいいですよ。

そしてもう一つ大切なことが食べる順序です。おかずから食べることが大切になります。決してパン、ごはん、果物、麺類を先に食べないということです。栄養の効率的な摂り方を紹介します。

1つ目は、食べる量が減っている方は、大切な栄養がたくさん入っているものを優先的に食べることです。例えば、お椀に小銭を入れた分だけもらえるというゲームがあったとします。その時に、10円玉や1円玉を先に入れるよりは、500円玉を先に入れていって、次は100円玉と、高い金額の小銭から入れていった方が高額になりますよね。胃が小さくなってあまり入らない方は、小さなお椀をもったようなものです。たんぱく質をたくさん含んでいる食べ物から入れていった方が、たんぱく質の合計は増えます。500円玉や100円玉にあたるたんぱく質をたくさん含んでいる食材はお肉類(魚、豚、鶏、牛など)と卵です。パンや果物はたんぱく質の量で考えると1円玉や10円玉ということになります。そのためたんぱく質の豊富なおかずから食べるという順序がとても大事になります。パンや果物から食べると小さなお椀(胃)がたんぱく質の少ないものでいっぱいになります。おなかを満たしたけれど栄養はとれませんでした、という悲しい結果になってしまうのです。

2つ目は、食が細くても、すこしでもたくさん食べられるように満腹感を感じにくい食べ方です。満腹感の感じ方は、いろいろな体内のホルモンの影響を受けているので人によって大きな差があります。しかしどんな方でも共通しているのは血糖値が上昇すると満腹を感じるホルモンがでることです。そこで血糖が上昇しにくい順番で食べることを考えます。パンをはじめに食べるとすぐに血糖が上昇します。パンや麺類(いったん細かい粉にしたものを再び形あるものにしている食材)はとても血糖上昇の早い食材です。そこまで早くなくても米、イモ、果実もすぐに満腹感をもたらしますので、始めに食べることを避けます。肉類や野菜で作られたおかずを先に食べるのです。おかずにも糖分が入っていますが、野菜の繊維成分などで吸収がゆっくりとなり血糖の急な上昇がおこりにくくなります。おかずを2品、3品、4品と種類をふやし、満腹になるまでおかずを食べ続けるのです。おかずは基本的に野菜(豆類を含む)と動物性たんぱく質(肉類と卵)と糖分(調味料やころもなど)でできていて栄養素がたくさん入っている食ベものです。お腹が満たされすぎて、最後にパン・麺・米を食べられなくなったとしても栄養が不足することはありません。会席料理はいくつものおかずが次々とでてきて、お腹いっぱいになってきた最後にご飯もの、そのあとにフルーツという順序が多いですよね。会席料理のイメージで食べる順番を工夫して楽しみながら栄養を摂りましょう。

ポイント③ 食材選び

たんぱく質が同じ量であれば、どの食材でもいいというわけではありません。口に入れて胃で消化されて、腸で吸収されて、体に入って利用される、といういろんなステップがあります。覚えてほしい最も大切なことは、たんぱく質には利用されやすいものと利用されにくいものがあるということです。たんぱく質は20種類のアミノ酸からできています。その中の9種類は食事からとらないと足りなくなります。利用されやすいものはその9種類のアミノ酸が全部バランスよくそろっている食材です。9種類のうち一つでも少ないとその少ない1種類のアミノ酸の量に合わせてほかの多いアミノ酸も少ない量しか使われずに余ったものは捨てられることになります。9種類がすべて100そろっている食材はたんぱく質の重さ分全部利用されます。8種類は100でも1種類が30だったら、9種類とも30しか利用されないので、食べた重さの30%しか利用されないということです。食べたたんぱく質の重さだけで決まるのではないのです。

例えば、新人社員となった息子に田舎のお母さんがズボン2本と上着8着(合計10枚)を贈りました、上下がそろったスーツは2つだけという場合、息子は2着のスーツしか利用できません。でもお母さんが、ズボン5本、上着5着(合計10枚)の上下そろったスーツ5つを贈ると、息子はスーツ5着を利用できます。こんな感じで同じ合計10枚でも一緒ではないですよね。アミノ酸も同じで食事からとらなければならない9種類のアミノ酸が同じようにそろっているたんぱく質を含む食材は食べた分すべて効率よく利用されます。しかし、1つでも足らないアミノ酸があればその少ないアミノ酸に合わせた分しか利用されなくなるのです。9種類のアミノ酸全部をバランスよく含むたんぱく質は、卵の白身やお肉類です。パンや麺、米にもたんぱく質が少し入っていますが、一部のアミノ酸が非常に少なく半分も利用されません。だから、たんぱく質が有効に利用されるおかずをたくさん食べることが良い作戦です。

結論

高齢になると若いころよりも食べる量が減ってくることが普通です。食べる量が減っても、①食べるたんぱく質の量、②食べる回数と順序、③食材選び、を意識して年齢に合わせた食べ方に変えていくことで、上手に栄養をとる習慣をぜひつけてみてくださいね。いったん身につき慣れるとずーっと役に立ちます。
1日にたんぱく質をいったいどれくらい食べたらいいの?について次回お話します。